ヒトの海馬では高齢になっても神経が再生している

ホットなアルツハイマー病研究:意外な新説
元あの理研CDB副センター長、西川伸一先生の記事です。以下は、抜粋です。


マドリードのオチョア分子生物学研究所から、免疫組織学的研究で、アルツハイマー病を神経変性として捉えるだけでなく、神経再生の異常としても捉えるべきだとする新説がNature Medicineに発表された。

この研究では、新しく作られた神経細胞のマーカーとして広く認められているdoublecortin(DCX)という分子マーカーを人間の組織でも利用できないかを検討するところから始めている。この研究のハイライトは、解剖で取り出した後の脳組織を処理する条件をこの点を改良したことで、これによりなんと80歳を超える人の脳組織にもDCX陽性細胞が存在することを示している。

この方法でさまざまな年齢の脳組織を調べると、海馬の歯状回でだけDCX細胞が存在し、この細胞から派生したと考えられる分化細胞も同時に検出された。すなわち、歯状回でだけ、ほぼ一生にわたって神経が新しく作られ、そこから分化した細胞がリクルートされている可能性が強く示唆された。

アルツハイマー病の海馬ではどうなっているのか、同じ方法で確かめている。するとDCX陽性細胞は病気の初期から著しい低下が見られ、また、年齢とは無関係に病状に応じて低下していた。さらに分化マーカーを用いた研究から、新しくできた細胞から成熟する過程が強く抑制されていることが示された。すなわち、アルツハイマー病では新しく細胞ができても、分化が抑えられ脳回路に統合できなくなっていることを示唆している。

私が知る限り、これまでアルツハイマー病は、分化を終えた神経細胞の変性として捉えるのが普通だった。今回の研究で、全く新しい視点、すなわち記憶に関わる海馬での神経新生の異常が示されたことで、新しい研究の展開が可能な気がする。

この研究はアルツハイマー病だけでなく、高齢者の希望にもなる。私はすでに70歳で日常生活での物忘れはかなり重症だが、現役時代より論文や本を読む時間が増えて、必要なことは結構覚えられることを実感している。さらにコンピュータにより記憶力の低下が補完できているので、より脳の働きが増したようにすら感じている。その意味で、80歳を超えても海馬の神経新生が活発であることを示したこの研究成果は嬉しい。


元論文のタイトルは、”Adult hippocampal neurogenesis is abundant in neurologically healthy subjects and drops sharply in patients with Alzheimer’s disease”です(論文をみる)。

私もとても興味深い報告だと思います。しかし、アルツハイマー病は海馬だけではなく、脳全体の萎縮が来ることが多いので、この説でアルツハイマー病すべてが説明できるとは思いません。後続の研究に期待します。

68歳の健康なヒトの海馬の歯状回。DCX細胞が赤く染色されている。青いのは細胞の核。

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