オキシコドンでBPSDが消失!? その訳は

オキシコドンでBPSDが消失!? その訳は:癌による疼痛で落ち着かず”徘徊”していた一例
BPSD (Behavioral and Psychological symptoms of Dementia)は、認知症の人の約80%に認められる行動の異常と精神症状です。行動異常としては、突然興奮し、大声を上げたり、暴言をはいたり、家から出て行ったり、夜中に冷蔵庫の中をあさったりなど、精神症状としては、うつ症状、不眠やいらいら、どうにもならない不安などがあります。

抗精神病薬とは、主に統合失調症や躁病・うつ病などの精神病状態の治療に用いられる薬物で、興奮や不安に対して有効とされるので、認知症で同様の症状が認められる場合にも用いられることがあります。

平成27年に厚労省から発表された「かかりつけ医のための『BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン』」には、抗精神病薬としてリスペリドン(リスパダール®)、ぺロスピロン(ルーラン®)、クエチアピン(セロクエル®)、オランザピン(ジプレキサ®)、アリピプラゾール(エビリファイ®)が紹介され、以下のような説明が書かれていました。


●BPSD の治療では抗精神病薬は適応外使用になる。抗精神病薬は転倒・骨折のリスクを高める。
●BPSD に対する抗精神病薬の有効性に関する十分なエビデンスはない。
●やむをえず使用する場合には、以下の各点に十分に留意すべきである。
1)非薬物的介入と組み合わせる。
2)多剤併用はできるだけしない。
3)中等度から重度の焦燥、興奮、攻撃性または精神病症状を治療の対象とする。
4)錐体外路症状などの出現がより少ない非定型抗精神病薬を用いる。
5)転倒、起立性低血圧、過鎮静などの副作用に加えて、脳血管障害や死亡などの重篤な副作用のリスクを本人、家族および関係者と共有する。
●副作用(歩行障害、嚥下障害、構音障害、寡動、無表情、振戦、起立性低血圧、過鎮静など)がみられるときは直ちに減量あるいは中止する。


残念ながら、第2版では上のような明快な記載がなくなりました。そのためか、BPSDと思われる行動異常や精神症状が出ると、原因を深く考えずに機械的に抗精神病薬が使われる例があるようです。

上の記事では、疾患や治療に関連した「苦痛」を認知症患者がうまく表現できず、BPSDを生じている「苦痛」を取り除くという根治的な対応ではなく、BPSD、すなわち行動心理症状に対症的な治療を行う例が紹介されています。

以下は、記事の抜粋です。


一般診療において、BPSDが疑われる事例のうち6~8割において、痛みなどの身体的苦痛と薬剤が関連していたとの報告があります(Testad I,et al.Int J Geriatr Psychiatry.2007:916-21.Cohen-Mansfield J,et al.J Gerontol.1989;44:M77-84.)。実際、外来・入院を問わず、処置や疾患による身体症状として痛みを感じている患者が多いことから、「落ち着かない」「気分の変動が大きい」「処置やケアを受けたがらない」などの際には、まず患者の身体症状を再評価することとよいのではないでしょうか。

【症例】80歳代女性。食欲不振

直腸癌再発、肝転移・骨転移。10年前に脳梗塞の既往があり、その頃よりもの忘れ(近時記憶障害)がある。

直腸癌に対して、低位前方切除後に術後補助化学療法を施行したが局所再発し、FOLFOXの後にS-1の治療を続けている。抗癌剤が奏効し転移巣はほぼサイズが変わらずに経過しているものの、局所再発は徐々に進行し、仙骨に接するくらいまでに浸潤していた。

受診時、Mini-Mental State Examination(MMSE)は23点(30点満点)で、自宅では身の回りのことを1人で行えていた。物静かな方で、庭いじりをしながらマイペースに過ごしていたものの、2カ月くらい前から、座らずに家の中を落ち着かなさそうにうろうろするようになった。食事の時にも座っていられず、すぐ立ち上がるため、摂取量が落ち、体重も3~4kgほど短期間で減ったとのこと。診察の際にも、椅子に座り続けることはできず、顔をしかめて「いえいえ」と言いながら立ち上がってしまう。落ち着かない理由を尋ねるも、「いや、特に、何か……」と言ったきりである。

この症例は、自宅で「食事の時も制止を振り切り徘徊する」ため、家族がその対応に疲弊していました。「家族を休ませるためにも、徘徊をやめさせる必要があり、そのために抗精神病薬を処方しなくては」と考えたくなるかもしれません。しかし、病態を含めて考えてみるとどうでしょうか。

実は、仙骨に接するくらいまで浸潤した局所再発の病巣が、仙骨神経叢を巻き込み、肛門周囲の疼痛(神経障害性疼痛)を招いていたため、坐位を取ることができなかったのです。ただ、本人はその痛みがあることや、そのために坐位が取れないことを説明できなかったため、家族や医療者からは、「落ち着かずに座っていられない」と見えていたのです。この症例に対して、オキシコドン10mg/日を開始したところ、“徘徊”は落ち着き、食事摂取量も回復しました。


がんの痛みがあって、それが十分に取り除かれていない、即ち緩和ケアが不十分な状態では非常に不快な気分になると思います。そういう状態をうまく医療者に伝えられないイライラに起因する行動異常(?)に対して、ハロペリドールやビペリデンを打たれたら本当に辛いと思います。こんな形で死を迎えたくないと思います。

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