がん免疫療法の“現実” 岡田正彦氏が指摘した「論文に3つの重大な疑義」について

ノーベル賞受賞で話題のオプジーボ、論文に3つの重大な疑義…がん免疫療法の“現実”
以下は、記事の抜粋です。


「がんを自然の免疫力で治す」という薬が話題になっています。値段が高いことから話題になったニボルマブ(商品名オプジーボ)もそのひとつです。どんな薬なのでしょうか?

ヒトの体内では、がん細胞が自然発生していますが、大部分は免疫細胞によって破壊されます。免疫細胞の表面には、がん細胞を見つけるためのセンサーがあり、がん細胞を認識すると攻撃します。一方、がん細胞は、センサーから身を隠す盾のような構造物を発現させます。

そこで登場したのが、このセンサーと盾の接触をブロックするワクチン(抗体)をつくるというアイデアでした。センサーと盾との接触を阻止する抗体、つまりがん細胞を免疫力で破壊する薬を世界中の製薬企業が続々とつくり始めたのです。

米紙ニューヨーク・タイムズによれば、「あまりに多くの新薬が開発され、あまりに多くの試験が必要となったため、患者が足りない」という事態が起こっています(記事をみる)。

ノーベル賞受賞で話題になったニボルマブについては、582人の患者を集めることができ、論文も有名専門誌に掲載されました(論文要約の和訳をみる)。

しかし、この論文には3つの重大な疑義があります。まず、「生存期間が従来の薬に比べて長かった」ことが強調されているのですが、よく読んでみると、それぞれ平均生存時間は、

・この薬を使ったグループ: 12.2ヵ月 ・従来の薬を使ったグループ:9.4ヵ月

と、わずか2.8カ月の差しかなかったことです。しかも2年後には、両グループ合わせて10人くらいの生存者しか残っていませんでした。

第2に、比べた相手が問題でした。タキソテール(商品名)という従来型の薬だったのですが、有名であるにもかかわらず、延命効果がいまだ証明されていないという代物で、深刻な副作用も知られています【注3】。延命効果は本来、偽薬(プラセボ)と比べるべきものですが、都合のいい結果を導き出すための意図が働いていたと思われます。

第3の問題は、論文に名を連ねた多数の研究者たちが、当の製薬企業から寄付金、旅費、講演料、株などを受け取っていたことでした。

ほかにも、肺がんの研究者たちが注目している論文があと2つあるのですが、うち1つは、ニボルマブの効果が従来の薬と変わらないことを示すものでした。

この状況は、胃がんでも同じです。「免疫療法の登場でがんが撲滅される日も近い」などの報道もなされていますが、ありえない話です。ノーベル賞受賞者と製薬企業との間に金銭をめぐるトラブルがあるとのニュースもあり、世間の評価と現実との大きなギャップには戸惑いを感じてしまいます。


上の記事で著者の岡田正彦(新潟大学名誉教授)氏が平均生存時間について書かれている数字は間違いありません。ただ、「しかも2年後には、両グループ合わせて10人くらいの生存者しか残っていませんでした。」という記載は不明確です。以下に論文の記載を引用します。


1 年の時点での全生存率は,ニボルマブ群 51%に対し,ドセタキセル(タキソテールの一般名)群 39%であった.さらなる追跡により,18 ヵ月の時点での全生存率は,ニボルマブ群 39%に対し,ドセタキセル群 23%であった.


例数は、ニボルマブ群 292 例で、ドセタキセル群 290 例ですので、どう計算しても「10人くらいの生存者」にはなりません。

次に第2の問題点として指摘されているドセタキセル(タキソテールの一般名)についてです。岡田氏が引用している文献にはドセタキセルで治療された患者の延命効果と症状コントロールについて、投薬しない患者よりも優れていたと書かれています(論文をみる)。また、日本の医療関係者向けのがん情報サイトにも、プラチナ製剤を含む治療後にドセタキセルを投与することは書かれており、標準的治療の1つだと思われます。さらに、本論文の対象となったような、末期の肺がん患者を偽薬(プラセボ)で治療(?)することは非人道的であり、新しい治療法をこれまでの標準的治療法と比較した本論文には問題はありません。

「第3の問題は、論文に名を連ねた多数の研究者たちが、当の製薬企業から寄付金、旅費、講演料、株などを受け取っていたことでした。」と書かれていますが、株まで受け取っていたことがどうしてわかるのでしょう?論文には、「Bristol-Myers Squibb 社から研究助成を受けた.」と書かれています。新薬の研究は、化合物の提供は勿論、研究費の助成がなければできません。それを含めて、論文の価値や信ぴょう性が評価された結果の論文掲載です。おかしいと判断されれば、雑誌は掲載を取りやめるはずです。

ということで、岡田氏が「3つの重大な疑義」として指摘された、3点の中で正しいと確認できたのは「・この薬を使ったグループ: 12.2ヵ月・従来の薬を使ったグループ:9.4ヵ月と、わずか2.8カ月の差しかなかったことです。」という記載だけです。

私も「免疫療法の登場でがんが撲滅される日も近い」とはまったく思いませんが、今のがん治療では、末期の肺がんでの「わずか2.8カ月の延命」は意味があるとされています。岡田氏の論理なら、ほとんどすべての末期がんでの抗がん剤治療は無意味になります。

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