認知症によるBPSD: 抗精神病薬“慎重な投与が必要”だが、、、

認知症 抗精神病薬“慎重な投与が必要”
以下は、記事の抜粋です。


認知症に伴う幻覚などの症状が現れたときに投与される「抗精神病薬」について、初めて投与された高齢者は、全く投与されていない人に比べ死亡率が2倍以上高くなったことが順天堂大学の研究グループの調査で分かりました。研究グループは「リスクを医療者や家族が把握し慎重に薬を使うことが必要だ」と指摘しています。

抗精神病薬は、BPSDと呼ばれる認知症に伴う幻覚などの症状が現れたときに投与されるもので、調査は全国357の医療機関でアルツハイマー型認知症の高齢者合わせておよそ1万人を対象に行いました。

まず、調査の開始時点で、すでに抗精神病薬の投与が続けられていたグループの4800人余りと、全く投与されていないグループの4800人余りについて半年後の死亡率を比較したところ、ほとんど差はありませんでした。

ところが、調査の期間中に初めて薬を投与された85人について、全く投与されていないグループと比べると、半年後の死亡率が2.53倍高くなったことが分かりました。肺炎や心不全で死亡した人が多く、薬を飲み始めてから2か月から半年の間に死亡率が高くなる傾向がみられたということです。

認知症の高齢者への抗精神病薬の投与について、米国では2005年、死亡率が1.7倍程度高くなったとして使用を控えるよう警告が出されています。日本では、基本的にはBPSDの治療に抗精神病薬などは使用しないとしたうえ、やむを得ず使用する場合は少量で始め、長期の使用は避けるなど、慎重な投与を求めています。


BPSD (Behavioral and Psychological symptoms of Dementia)とは、認知症の人の約80%に認められる行動の異常と精神症状です。行動異常としては、突然興奮し、大声を上げたり、暴言をはいたり、家から出て行ったり、夜中に冷蔵庫の中をあさったりなど、精神症状としては、うつ症状、不眠やいらいら、どうにもならない不安などがあります。もの盗られ妄想や誰かが側にいる、見える、と言った幻視などのレビー小体型に良く認められる症状も含めてBPSDとよぶことが多いです。

抗精神病薬とは、主に統合失調症や躁病・うつ病などの精神病状態の治療に用いられる薬物で、興奮や不安に対して有効とされるので、認知症で同様の症状が認められる場合にも用いられることがあります。

「かかりつけ医のための『BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン』」には、抗精神病薬としてリスペリドン(リスパダール®)、ぺロスピロン(ルーラン®)、クエチアピン(セロクエル®)、オランザピン(ジプレキサ®)、アリピプラゾール(エビリファイ®)が紹介され、以下のような説明が書かれています(ガイドラインをみる)。


●BPSD の治療では抗精神病薬は適応外使用になる。抗精神病薬は転倒・骨折のリスクを高める。
●BPSD に対する抗精神病薬の有効性に関する十分なエビデンスはない。
●やむをえず使用する場合には、以下の各点に十分に留意すべきである。
1)非薬物的介入と組み合わせる。
2)多剤併用はできるだけしない。
3)中等度から重度の焦燥、興奮、攻撃性または精神病症状を治療の対象とする。
4)錐体外路症状などの出現がより少ない非定型抗精神病薬を用いる。
5)転倒、起立性低血圧、過鎮静などの副作用に加えて、脳血管障害や死亡などの重篤な副作用のリスクを本人、家族および関係者と共有する。
●副作用(歩行障害、嚥下障害、構音障害、寡動、無表情、振戦、起立性低血圧、過鎮静など)がみられるときは直ちに減量あるいは中止する。


同じガイドラインでの他の向精神薬についての記載も以下に抜粋して紹介します。


抗うつ薬
●認知症ではSSRIやSNRIが第1選択になるが、有効性は一定していない。
●抗うつ薬は向精神薬のなかで転倒リスクが最も高いという報告がある。
●SSRIやSNRIは、減量や中止する際には漸減する。
●SSRIで最も頻発する副作用は嘔気や下痢などの消化器症状。
抗不安薬、睡眠導入剤
●抗不安薬は高齢者において副作用が発現しやすく、過鎮静、運動失調、転倒、認知機能の低下のリスクが高まるため、原則使用すべきでない。
●抗不安薬は広く認知症診療の現場で使われているが、厳密な比較対照試験はほとんど行われておらず BPSD に対する客観的な評価は得られていない。
●従来よりベンゾジアゼピン系の薬剤をすでに使用している場合には、転倒、せん妄、認知機能の低下などのリスクを考え、注意深く観察しながら漸減ないし、非ベンゾジアゼピン系の薬剤への切り替えを考慮すべきである。


85人の結果から「死亡率が2倍以上高くなった」と結論することには問題があると思います。しかし、抗精神病薬を飲み始めてから2か月から半年の間に死亡率が高いのは、ガイドラインから外れた不適切な抗精神病薬使用の結果、嚥下障害による誤嚥性肺炎の影響などが原因だと思います。

認知症のBPSDに対する精神科的薬物(向精神薬)の使用は、抗精神病薬だけではなく、抗うつ薬や抗不安薬・睡眠薬などでも、効果が少なく副作用ばかり出てしまうことが多いです。それでも「やむおえず」使用されることが多いのは、それだけBPSD大きな問題であることを示しています。