なぜ「がんの免疫療法」が“Breakthrough of the Year 2013“ なのか?

サイエンス誌が選ぶ、2013年の科学10大ブレークスルー
以下は、記事の抜粋です。


Science誌が選ぶ10件のブレークスルーのうち、栄えある “Breakthrough of the Year 2013“ に選ばれたのは、がんの免疫療法に関する研究です。厳密に言えば抗体医薬に関する研究で、「二種類の抗体薬を併用することにより、進行悪性黒色腫(悪性度が高いがんの一種)患者の半数に、腫瘍の縮小を確認できた」という内容です。

ちなみに、2012年のBreakthrough of the Yearには、先述の「ヒッグス粒子に関する発見」がノーベル賞受賞前に選出されています。以下、Breakthrough of the Yearに続く9件に優劣はなく、便宜的に番号をつけていきます。

②RSウイルスのワクチン開発
③脳の透明化
④次世代のペロブスカイト太陽電池
⑤次世代の遺伝子操作技術「CRISPR」
⑥試験管内で脳を作ることに成功
⑦脳は睡眠中に「ゴミ捨て」をしている
⑧腸内細菌がヒトに与える影響
⑨ヒトクローン胚からES細胞の生成に成功
⑩宇宙線の発生・加速源の特定


“Breakthrough of the Year 2013“ の記事はこちらです。論文のタイトルは、”Nivolumab plus Ipilimumab in Advanced Melanoma”です(論文をみる)。この論文については、本ブログでもとり上げて説明しました(関連記事をみる)。

私が文句を言っても仕方ないのですが、私はこの受賞というかnominationが不思議です。関連記事にも書きましたが、イピリムマブ(ipilimumab、抗CTLA-4抗体)は、Yervoy®という商品名で進行性メラノーマの治療薬として、2011年に米国FDAによって承認されています(日本ではまだです)。CTLA-4はT細胞刺激後に発現が誘導され、T細胞活性化経路をダウンレギュレートする免疫チェックポイント分子です。イピリムマブはCTLA-4を抑制して、患者の腫瘍に対する免疫を非特異的に増強する薬です。メラノーマ患者の生存期間を有意に延長し、投薬された患者の20%以上が2年以上生存したそうです(記事をみる)。

Programmed death 1 (PD-1)は、CTLA-4とは別の免疫チェックポイント分子で、PD-L1とPD-L2という2つのリガンドが知られており、これらの抗体も進行性メラノーマに有効だと報告されています(記事をみる)。これは2012年の論文です。

CTCL-4とPD-1は、どちらもT細胞の活性化を抑制します。免疫チェックポイントとは免疫が自らの体を攻撃しないためのメカニズムで、がん細胞はこれを利用して免疫反応から逃れていると思われます。これらのことから、ニボルマブとイピリムマブの併用は、T細胞による細胞性免疫を非特異的に活性化すると考えられます。

私が上で不思議だと書いたのは、これらのこれらの抗体を同時に使ったのは今年が初めてだったとしても、それぞれの抗体は既に使われていました。また、メカニズムもT細胞による細胞性免疫を非特異的に活性化することによります。これが本当にブレークスルーなら良いのですが、シェックマンが書いたように、Science誌は「商業主義的な体質で科学研究の現場をゆがめている」のでしょうか?(記事をみる)。

関連記事
進行性メラノーマに対するニボルマブ(抗PD-1抗体)とイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)の併用
ランディ・シェックマン氏の寄稿には3科学誌への批判だけではなく重要な提案もあります

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする