「本当に」医者に殺されない47の心得 その2

医師 岩田健太郎(@georgebest1969)氏による「本当に」医者に殺されない47の心得

昨日の続きです。薬理学に関係するものをピックアップしてみました。


[心得11] なんでバカ売れ?DPP-4阻害薬
日本でどのような糖尿病の薬が使われているかというと、これがびっくりなのです。当然、第一推奨薬のメトホルミンでしょ、と思いきや、さにあらず。2012年の1月~12月にもっとも売上が高かった糖尿病薬は、1位 ジャヌビア、2位 グラクティブ、3位 ネシーナでした。この3つ。全てDPP-4阻害薬というタイプの糖尿病薬なんです。ええ?メトホルミンはどこ行ったの?

日本の医者は、すぐに新薬に飛びつく悪い癖があります。製薬メーカーは、薬価の高い薬(すなわち新薬)を売ったほうが儲かります。新薬の開発にはものすごいお金がかかりますから、それを回収しなければなりませんし。

[心得12] 末梢循環改善薬は、何を循環させてるの?
糖尿病は血管をボロボロにします。足の血行が悪くなると、足が腐ったり、最悪切り落とさねばならなくなることすら、あります。ぼくがアメリカから日本に帰ってきたとき、使ったことのない薬を多くの医者が処方しているので驚きました。それは、末梢循環改善薬。プロスタグランジンという物質に似た薬で、血管を広げたり、血小板という血を固める物質の効果を弱めたりして、「血流を良くする」んだそうです。

ええーっ!こんだけしか臨床データないの?じゃ、なんでこの薬承認されたのよ、、、とびっくりしたぼくは、PMDAの評価文書を読んでみました。が!しかし!そのうち1つはメーカーの社内資料。そんなの採用基準に入っちゃうわけ?、、うーん、ぱっとしないじゃないか。というわけで、プロスタグランジン系の末梢循環改善薬って何を循環させているかというと、医療費を循環させているだけのようです。

[心得13] 高血圧の治療薬 そのいびつさ
アメリカのガイドラインでは、基本的にサイアザイド系が第一選択、心筋梗塞とかがあればβブロッカー、腎臓が悪い時はACE阻害薬か、ARBとなっています。英国のガイドラインでは、55歳未満であればACE阻害薬かARB、55歳以上であればカルシウム・チャネル・ブロッカーかサイアザイド系となっています。日本高血圧学会はなぜかACE阻害薬かARBが第一選択薬で、そのくせACE阻害薬は全然売れなくて、ARBの一人勝ちなのです。

サイアザイド系の薬の最大の弱点は、尿酸値が高い人に使うと、さらに高くなってしまい、痛風発作のリスクを高めてしまうことです。ACE阻害薬の咳でこの治療を断念する人は、います。βブロッカーは心筋梗塞や心不全のある人にはとてもよい薬ですが、フラつきが起きたりして、老人につかうときは転ばないよう、神経を使わねばなりません。カルシウム・チャネル・ブロッカーは、足がむくんだりして中止することがときどきあります。でも、やはり何でもかんでもARBというのはちょっと芸がなさ過ぎますね。

[心得16] 変化し続ける医療の世界 テオフィリンの話
喘息は気管支が狭くなる病気で、その気管支を広げるテオフィリンは理にかなった治療薬でした。ところが、20世紀後半になると、喘息は単に気管支が狭くなるだけでなく、そこに炎症が起きていることがわかってきます。で、炎症を抑えるステロイドが治療薬として使われるわけです。吸入ステロイド療法は、ステロイドが全身に回りにくいこともあり、副作用の問題も比較的少ないです。吸入ステロイド療法の定着にともない、かつて、あんなに多かった喘息発作、救急センター受診、も激減しました。

ステロイドは副作用が多くて、あんな危ない薬を使うのはダメ医者だ、という主張を耳にすることがあります(そして民間療法をオススメ)。でも、ここでもステロイド「そのもの」に善悪はありません。副作用があることすら問題の根本ではありません。あくまでも、そのステロイドが「どういう患者」に使われ、「何をもたらすのか」が肝心です。ステロイド、というだけで毛嫌いしてはいけません。

[心得17] なかなか微妙なラマの話
喘息の治療薬は他にもたくさんあります。その中で、ベータ刺激薬という気管支拡張薬はとくに現場でよく使われています。軽症で症状が持続しない喘息の場合は、ステロイドよりもまず、このベータ刺激薬を先に使います。普通のベータ刺激薬は持続時間が短いので、長く効くものが開発されました。それが、長時間作用型ベータ刺激薬です。英語で書くと、long acting beta agonist, 略してLABAと書き、ラバと読みます。
同様に抗コリン薬という薬も喘息に使われ、こいつも長く効くものが開発されました。long acting antimuscarinic agentと英語で書き、略してLAMAと書き、ラマと読みます。このLAMAも難治性の喘息には効果が高いことが、最近の研究で分かっています。

さて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)も喘息同様、気管支が狭くなる病気だから、同じように治療できるじゃないか、と思うじゃないですか。確かに、LABAも使います。ステロイドも使います。ところが、COPDの患者さんにLAMA(ラマ)を使うと、なんと死亡率が高まってしまうことが最近の研究で分かりました。

だから、マジメな医者は悩んでいます。「長生きする方法」なんて簡単に本のタイトルにしてはいけないのは、そのためなんですね。

[心得18] 心不全にはジギタリスか
世間では、化学的に合成したものは体によくなくて、自然のものは体によい、なんてデマを飛ばす人もいます。そんなことはありません。

ジギタリスには強心作用があるため、心不全の特効薬として使われてきました。しかし、じつは本命の心不全患者にも効果ないんじゃないの?と言われるようになってきており、心不全患者に用いることもほとんどなくなりました。有名なDIGスタディーという研究で、ジギタリスを使っても心不全患者の死亡率が下がらないことが示されたのです。もっとも、ジギタリスを使うと心不全などの入院は減るという研究もありますから、全然効果皆無、というわけではありません。

[心得19] 点滴してくれと、言ってはいけない
どういうときに点滴が必要かというと、原則、次のみっつだけです。

1.脱水していて、口から飲めない
2.脱水していなくて、口から飲めない
3.体のミネラル(など)が「とても」狂っている。

で、外来の患者さんにこういう人は皆無です。なぜなら、1~3はみんな基本、入院しなければいけない患者さんだからです。ちなみに、点滴を入れるとは、皮膚に「わざと」穴を開けることを意味しています。皮膚はバイキンから身を守ってくれてますが、それを破綻させるので、ここから感染症が起きます。

[心得25] その処方で大丈夫?薬をオーダーする前に。
高血圧とか糖尿病とか、いろいろな病気をもっているある患者さんが、両脚がムクムクにして来院されました。ピロリ菌の除菌を行ったあと、腫れてきたというのです。「両脚がむくむ」病気はいろいろあります。心臓の病気、肝臓の病気、腎臓の病気、そしてタンパクの病気など、、、この患者さんにはどの病気もありません。はて?

腎移植後の患者さんが、手が震える、しびれる、めまいがする、お腹がいたい、息苦しい、といろいろな問題を抱えてやってきました。最近、胸のレントゲン写真で異常を指摘され、「アスペルギルス」というカビが生えたのだと言われたそうです。で、治療していたら、だんだん調子が悪くなってきたのです。

心房細動という不整脈の患者さん。心臓の中で血が固まらないよう、ワルファリンという「血液を固めにくくする」薬を飲んでいました。ワルファリンは血液検査で、その濃度を安定させるようチェックするのですが、あるときビックリ!ワルファリン濃度が普段の5倍以上になっていました。最近膀胱炎になって、近所のお医者さんに抗生物質出してもらったんです。ん?

薬は、その薬「単独」の効果や副作用ばかりチェックしていると失敗することがあります。多くの患者さんは、1つ以上の薬を飲んでいるからです。そう、AとBという2つの薬がいっしょになると、「合わないんです」。

一例目は、アダラートという血圧の薬を飲んでいて、ピロリ菌を殺すためにクラリスロマイシンを飲んだために、アダラートの副作用の「むくみ」が強く出ちゃったものです。二例目は、プログラフという免疫抑制剤を飲んで移植臓器に対応していた患者さんが、ボリコナゾールというカビを殺す薬を飲んで、ボリコナゾールの副作用が強く出ちゃったのです。三例目は、ワルファリンという抗凝固薬を飲んでいた患者さんが、バクタという抗生物質を飲み、そのためにワルファリンの血中濃度がバカ上がりしちゃった話です。バクタのみならず、抗生物質はお腹の中の「よいバイキン」を殺します。で、そのバイキンがビタミンKを作っているのです。ビタミンKはワルファリンに拮抗します。で、抗生物質でバイキンが死ぬと、ビタミンKの量が減り、ワルファリンを拮抗している物質がなくなりますから、ワルファリン濃度がバカ上がり、というわけです。


「医者に殺されない」患者のための心得というよりも、「医者が患者を(何もしないよりも)悪くしない」医者のための心得に近いと思います。
2型糖尿病にメトホルミンがあまりつかわれない状況は、最近になってかなり改善されてきましたが、高血圧で「なんでもかんでもARB」という状況は変わっていません。「ディオバン事件」はマスメディアもとりあげて大騒ぎになっていますが、「なんでもかんでもARB」という状況はまったくとりあげられないため、変わりそうもありません。

ジギタリスが心不全患者の死亡率を下げないことは、ウチの学生講義でも話されています。心得25の薬物相互作用についても講義で紹介するのにピッタリの話だと思います。また、ステロイドを毛嫌いしたり点滴を熱望する患者が多いこと、オパルモンなどの末梢循環改善薬がやたら多く処方されていることなどもその通りだと思います。

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コメント

  1. ころころ より:

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    私もこの本 偶然昨日 コンビニで見て立ち読みしました。