インド、後発薬製造で独バイエル特許に対し初の強制実施権発動

インド、後発薬製造で独バイエル特許に対し初の強制実施権発動
以下は、記事の抜粋です。


国境なき医師団(MSF)の発表によると、インド特許庁は3月12日、同国で初となる医薬品特許の強制実施権を発動した。これにより、インドのジェネリック薬製造会社ナトコは、ドイツのバイエルが特許権を有するトシル酸ソラフェニブ製剤による腎臓・肝臓がん治療薬を製造できるようになった。ナトコはバイエルに対し、特許保護期間が継続する2020年までの8年間、定率6%の特許権使用料を支払うとしている。

インドは途上国で使われているジェネリック薬の大半を供給し「途上国の薬局」と呼ばれており、今回の決定は、特許権を付与された薬の価格が高額である場合に、ジェネリック版の製造を可能にする強制実施権の発動が認められた初のケースとなった。特許庁は、バイエルが適正で手ごろな薬価設定を怠り、インド国内で持続的に十分な量の薬を供給していないことを判定の理由としている。ジェネリック薬による価格競争で、インド国内のソラフェニブの価格は、月間5500米ドル(約45万円)から、およそ97%減の175米ドル(約1万4500円)近くまで低下することが予想されている。

MSFは、「今回の判定は、不当な価格で薬の流通や購入を制限する製薬会社は、制裁を受けることを示している。特許庁には、国民が重要な薬を入手できるよう、製薬会社の独占的な権力をけん制できる権限があり、この判定が前例となり、ほかの医薬品や輸出品への適用が認められれば、ジェネリック薬治療に頼っているMSFの患者や途上国の人びとにとって、大きな後押しとなりうる」と説明している。


ソラフェニブ(sorafenib、ネクサバール®)は、いわゆる分子標的薬に分類されていますが、RAF、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFR-β、KIT、FLT-3そしてRETなどの多くのタンパク質リン酸化酵素を阻害します。そのため「マルチキナーゼ阻害剤」などともよばれています。作用としては、RAF阻害による腫瘍細胞の増殖抑制とVEGFRなどの阻害による血管新生抑制などの複数の作用があるとされています。

根治手術のできないまたは転移性の腎細胞がん患者の無増悪生存期間を2倍に延長し、許容できる忍容性であるという結果を受けて、米国FDAは全生存期間の試験成績を待たず、2005年12月にソラフェニブを承認しました。国内での臨床試験でも、海外と同様の成績が示されました。これらをみると良い薬のようです。

しかし、多くのセリンスレオニン・キナーゼとチロシン・キナーゼを阻害するので副作用も多いはずです。実際、腎細胞がん及び肝細胞がん患者を対象とした国内臨床試験において、145例中141例(97.2%)に副作用が認められました。主な副作用は、リパーゼ上昇85例(58.6%)、手足症候群80例(55.2%)、アミラーゼ上昇59例(40.7%)、発疹59例(40.7%)、脱毛53例(36.6%)、下痢51例(35.2%)、高血圧40例(27.6%)、疲労23例(15.9%)、食欲不振21例(14.5%)、掻痒21例(14.5%)、体重減少18例(12.4%)、嗄声16例(11.0%)、AST(GOT)上昇15例(10.3%)などです。

通常、成人にはソラフェニブとして1回400mgを1日2回経口投与するので、ネクサバール®200mg錠(5,426円)を1日4錠投与すると、5,426円×4=21,704円かかります。1ヶ月で約65万円(3割負担で19.5万円)ですので、高額療養費制度を利用しないと治療を続けることは困難です。

上の記事によると、これが約1万5000円になるということです。未承認薬問題の結果生じる個人輸入などの「ひずみ」は未承認薬等開発支援センターなどの設置で改善に向かっていますが、高価な分子標的薬や抗体医薬が「途上国の薬局」から出てくることによって、また別の「ひずみ」が生じることになると思います。

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