BRCA1は乳がんや卵巣がんだけではなく、心筋梗塞後の細胞死からも心筋細胞を守る

BRCA1 is an essential regulator of heart function and survival following myocardial infarction
以下は、論文要約の抜粋です。


がん抑制遺伝子のBRCA1は、家族性乳がんと卵巣がんの一部で変異していることが知られているが、他組織のDNA損傷における役割は不明である。本研究では、心臓の機能と生存における守護神というBRCA1の新しい役割を明らかにした。

BRCA1のノックアウトマウスでは、虚血あるいは遺伝毒性のある化学療法薬によって、有害な心臓リモデリング、心室機能の低下、高い死亡率などが認められた。

心筋細胞におけるBRCA1のノックアウトは、DNA2本鎖切断修復能の低下とp53を介するアポトーシス促進シグナルの活性化をひきおこし、心筋細胞のアポトーシスを増加させた。一方、p53遺伝子をノックアウトすると、このようなBRCA1欠損マウスの心不全症状を改善した。

ヒトの心臓においても、虚血によってDNAの2本鎖切断が誘導され、BRCA1発現が増加した。これらの結果は、心筋細胞をDNA損傷、アポトーシス、心不全などから守るというBRCA1の新しい機能を示すものである。さらに、BRCA1変異を持つ患者は、乳がんや卵巣がんのリスクだけではなく、これまで知られていなかった心不全のリスクも有することを示唆している。


BRCA1は、遺伝性乳がん患者の50%程度に変異が認められ、変異を持つ女性は生涯において乳がんを発症する確立が50-85%、卵巣がんを発症する確立が12-60%だと報告されています。

BRCA1は様々な細胞プロセスで働いていますが、DNA修復における役割が特に良く知られています。これは、BRCA1がRAD51というDNAの2本鎖切断を修復する酵素を活性化するためと考えられています。BRCA1変異により、DNA修復機能が低下して遺伝子の病気であるがんが生じやすくなるのは理解しやすいと思います。

著者らは、虚血で生じるDNAの2本鎖切断やそれに引き続くアポトーシスが、心不全の発生に重要だとして、これがBRCA1ノックアウトマウスで心不全がおこり易い理由だとしています。根拠の一つとして、統計的にBRCA1変異のある患者は非がん死も多いということなどもあげていますが、著者の論理には少し無理があるように思います。虚血でDNA切断やアポトーシスがおこることは事実だとしても、心筋梗塞後の心不全における重要性は、まだ今後の問題だと思います。

昔からドキソルビシン(アドリアマイシン)の重要な副作用として、心臓毒性が良く知られています。この論文の主張が本当なら、BRCA1に変異のあるがん患者は、アントラサイクリン系化学療法薬の使用に伴う心不全のリスクが他の患者より高い可能性があります。臨床データの検証が必要だと思います。

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