福島での子供の甲状腺検査を意味あるものに

福島:子供の甲状腺検査始まる 36万人、生涯チェック

以下は、記事の抜粋です。


福島県は10月9日、東京電力福島第1原発事故に伴う県民健康管理調査の一環として、今年4月1日時点で18歳以下の子供全員の甲状腺検査を福島市の県立医大病院で始めた。約36万人を対象に生涯にわたって甲状腺をチェックする世界でも類を見ない調査となる。

検査は1人5分程度で超音波を使い、複数の医師で診断し、結果は約1ヶ月後に通知。病変の恐れがあれば後日、採血や尿検査、細胞を採取する詳細検査を行う。初日は飯舘村と浪江町、川俣町などの144人が検査を受け、22人は県外の避難先から。14年3月までに県内を一巡、その後は2年ごと、20歳を超えると5年ごとに検査する。


上の毎日新聞の記事には、飯舘村から川俣町に避難している4人の子供をつれた主婦(43)、飯舘村から川俣町に避難している高校1年の女子生徒(16)などの言として、「もっと早く検査してほしかった」、「できる限りいろいろな検査をしてほしい」などのコメントを載せています。このような検査にどんな意味があるのでしょうか?

以下は、「原発事故後の福島県内における甲状腺スクリーニングについて」という福島医大乳腺内分泌甲状腺外科の鈴木眞一氏の見解の抜粋です(下線は勝手に引きました)。


はじめに
東日本大震災に続発して起こった東京電力福島第一原発の事故は、福島県のみならず日本および北半球の大気に広範な放射線汚染をもたらしました。原発の事故のレベルとしてはチェルノブイリと同等のレベル7とされています。その際に最も話題となっているのは、チェルノブイリでの事故で唯一健康被害として明らかになった放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児甲状腺がんです。原発事故時に0歳から15歳であった子供たちに5年後から急に甲状腺がんの発症を見たものです。このような状況から、福島県内でも「甲状腺」が話題となっています。しかし、チェルノブイリと福島では被ばくの線量も様相も全く異なっています。そこで、無用な心配と混乱を避ける為に、甲状腺に関する見解をお知らせ致します。

一般の甲状腺がんについて
甲状腺がんは頻度が高く、その予後(がんの成績です。生存、再発、死亡など)は良好です。甲状腺がんの約90%を占める乳頭がんの10年生存率は 95-6%と極めて予後良好で、固形癌のなかで最も予後が良いとされています。また甲状腺がんの進行は極めて緩徐です。また最近では、超音波検査機器の向上から10mm以下の微小癌が多数発見されるようになってきましたが、極めて予後が良いものが多いために、甲状腺被膜外浸潤、リンパ節転移、遠隔転移、遺伝性甲状腺がんなどが否定される場合には直ちに手術をせず経過観察をおこなうこともあります。成人の乳頭がんの約半数にBRAFの遺伝子変異が認められます。

小児甲状腺がんについて
頻度は14歳以下0.3%、19歳以下1%と全甲状腺がんに占める割合は極めて少ない割合です。本邦、欧米とも年間発生率は人口10万人あたり約0.2名とされています。予後は成人例とはやや異なります。すなわち、遠隔転移とくに肺転移例が多く認められます。甲状腺全摘が多く施行され、術後に131I内照射治療も必要になることがあります。しかし、成人例に比べ再発は多いものの生命予後に関しては成人に比較して良好とされています。従って、術後長期のフォローが必要となります。成人とは異なり小児例ではRET/PTC遺伝子の再配列が多く認められ、放射線誘発の甲状腺がんにも認められる異常とされています。

チェルノブイリでも過去25年間で6000人以上の放射線関連甲状腺癌(事故当時乳幼児から学童)が手術されましたが、死亡例は約15名(0.25%)と非常に少ないものでした。死亡例の多くは、手術や術後治療に慣れていない施設での両側反回神経麻痺などの術後合併症に起因するとされています。現在では進行がんも問題となっています。広島長崎の原爆による被ばくでは甲状腺がんは、1Svの外部被ばく線量で甲状腺がんのリスクが1.5倍に増加しております。被ばく量が高いほどまた被爆時の年齢が低いほど癌の発生が増えております。

チェルノブイリと福島の違い
チェルノブイリでは、放射性ヨウ素により汚染されたミルクを飲んだ子どもたちに甲状腺内部被ばくをもたらしました。一方、福島の子どもたちは食の安全が確保されていますので状況は全く異なります。さらにチェルノブイリは内陸に位置し、いわゆるヨード欠乏地域であり、地方病性甲状腺腫の後発地域でした。本邦では周囲を海に囲まれ、日本国内ではどこでも海産物の摂取は可能となり、世界的にも高ヨード摂取地域とされています。甲状腺の検査で131Iを投与して画像診断や治療を行うことがありますが、日本人では投与前1-2週間の厳格にヨード制限を施行しないと、131Iを投与しても甲状腺に取り込まないという事実があります。従って、通常、わかめのみそ汁や昆布ダシ、ひじきさらに魚等ヨード含有量の多い日本食を食している場合、放射性ヨードの甲状腺への取り込みはチェルノブイリに比して少なくなることが容易に予想されます。

現在の注意事項
現在の空間線量では急性放射線障害は考えられません。また、殆どの県民には現在の微量慢性的な被ばくによって甲状腺がんが発症することは考えられません。しかし、県民の皆様の不安を解消するために、県と医大では県民健康管理の一貫として、震災後3年目から震災時県内全域に居住していた小児(震災時0歳から15歳)に対し、甲状腺超音波検査を施行する予定です。甲状腺がんは被ばく後すぐには発症しません。また、お家の方が頚部にしこりを気づいた時点でも治療は可能です。むしろ小児甲状腺がんを過度に心配し、無用な医療用放射線被ばく(CT・PET)を繰り返すことにより甲状腺がんの発症を誘発する可能性も少なくありません。甲状腺がんのスクリーニングには超音波検査が有用で第一選択となります。小児に検診目的としてのCTやPET検査を先行することは勧められません。かえって医療用被ばくを助長してしまうこともあります。超音波検査で甲状腺内のしこりが発見された人の大半は良性腫瘍が予想されます。確定診断には穿刺吸引細胞診を行います。採血の注射をするのと同じ程度の侵襲で出来ます。

まとめ
原発事故による放射線の健康影響の問題として、甲状腺がんが話題にされていますが、上記のような実態を良く理解して冷静に対応してください。今後3年後の本格的甲状腺超音波検査実施にむけて、私ども甲状腺専門医と小児専門医が連携し、オールジャパンで県民の皆様に対応する予定です。ご不明な点は、甲状腺専門家へのご相談を宜しくお願い申し上げます。


鈴木先生の見解は的を得たものだと思います。まともな新聞記者であれば、福島医大のスクリーニング実施責任者からの見解を踏まえて記事を書くはずです。しかし、記事では、下線部分で示した重要なメッセージは完全に無視されています。

検査対象年齢もなぜか18歳までに引き上げられています。どこのレベルで年齢が変更されたのでしょうか?念のためという発想か、政治的配慮かわかりませんが、無用の心配や差別などの混乱の原因になる可能性があります。発がんメカニズムを考えれば、「もっと早く検査してほしかった」、「できる限りいろいろな検査をしてほしい」などのコメントは明らかに誤りです。重要なメッセージを無視し、誤ったコメントを掲載するマスコミは意図的に不安を煽ろうとしているのでしょうか?

この際、世界中の人々の役に立つような、しっかりとした医学調査をしてほしいと思います。そのためには、被爆しないコントロール群と比較した10年から20年ぐらいの大規模調査を行う必要があります。政治ショーやマスコミの不安煽りネタで終わらせないよう、福島医大の先生方がんばって下さい。

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