女性ホルモンのプロゲステロンは、精子のCatSperチャネルに働いてカルシウム流入をひき起こす

The CatSper channel mediates progesterone-induced Ca2+ influx in human sperm

以下は、論文要約の抜粋です。


卵管の中で、卵子の周りにある卵丘細胞はプロゲステロンを分泌する。プロゲステロンはヒトの精子において、非ゲノム的メカニズムによるカルシウム(Ca2+)の流入をひきおこす。この精子へのCa2+流入によって、卵子へのケモタキシス、精子の活性化、アクロゾーム反応などがおこる。しかし、この流入のメカニズムは不明だった。

本研究では、プロゲステロンが精子特異的なpH感受性CatSper Ca2+チャネルを活性化することを示す。研究者らは、プロゲステロンとアルカリ性のpHで精子を刺激すると、ほとんどタイムラグのない急速なCa2+イオン流入が生じることを見出した。この速い流入は、代謝的な受容体やセカンドメッセンジャーを介するようなシグナル伝達では説明できない。

プロゲステロンとアルカリ性のpHで惹起されるCa2+シグナルは、CavチャネルブロッカーのNNC 55-0396とmibefradilによって阻害された。さらに、精子のパッチクランプ解析により、アルカリ刺激で流れる電流は、CatSper Ca2+チャネルの特徴的なイオン選択性・透過性を示した。プロゲステロンもCatSper電流を増強し、これらで増強されるCatSper電流は、上記のCavチャネル阻害薬によって抑制された。

以上の結果は、ヒト精子においてCatSperチャネルそのもの、あるいはそれと共役するタンパク質が非ゲノム的プロゲステロン受容体として働くことを示している。


プロゲステロンのシグナルは、多くの場合、他のステロイド受容体と同様、核内受容体を介する遺伝子の転写制御により伝達されることがわかっています。これを上の論文では「ゲノム的」メカニズムと呼んでいます。一方、プロゲステロンは精子の様々な活動を活性化することが知られていましたが、精子には転写活動がほとんど認められないので、プロゲステロンの精子に対する作用メカニズムは全く不明でした。

研究者らは、Fluo-4による細胞内Ca2+濃度測定と、パッチクランプ法によるチャネル解析によって、ヒト生殖における長年の疑問―非ゲノム的なプロゲステロンによる精子の活性化メカニズム―が解明されたと主張しています。ただ、精子をそのまま調べただけで、培養細胞における再構築などはできていないので、まだ分子レベルのメカニズムを解明したとは言えません。

驚いたことに、マウスのCatSperチャネルはプロゲステロンでは活性化されないそうです。もっと驚いたのは、ほぼ同じ内容の論文がNatureの同じ号にside by sideで掲載されていて、2つの論文ともreceiveが7月27日でacceptは12月17日だったことです(もう一つの論文をみる)。

いずれにしても、CatSperチャネルは精子特異的なので、選択的な阻害薬がみつかれば良い避妊薬ができるだろうと思われます。

ヒト精子のプロゲステロンによるカルシウム流入の模式図(Max-PlanckのHPより)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする