プリオン:空気感染は「非常な少量でも致死」?

プリオン:空気感染は「非常な少量でも致死」

以下は、記事の抜粋です。


空気中に噴霧された『プリオン』にほんの短時間さらされただけで、マウスが100%の確率で死亡する可能性のあることが、最新の研究によって明らかになった。1月13日付けの『PLoS Pathogens』に発表された。

プリオンは、1982年に発見された第3の種類の感染症で、誤って折りたたまれたタンパク質のみでできている。プリオンの分子は、正常なタンパク質と似ているが、正常なタンパク質を長い線維に変え、それが連鎖反応のようにさらなるプリオンを作り続け、最終的には細胞を殺してしまう。

ヒトに発生するプリオン病は、クロイツフェルト=ヤコブ病を含めてこれまでに5種類が知られている。ヒト以外の動物に生じるものでは、スクレイピー、慢性消耗病、牛海綿状脳症(BSE、いわゆる狂牛病)など、6種類が知られている。これらは感染した体液や組織を介して伝播するが、空気感染の可能性については、これまでは決定的でない証拠が存在するのみだった。

研究チームは、複数の小さなグループに分けたマウスに対して、スクレイピーを引き起こす種類のプリオンを含むエアロゾル[脳をすりつぶした組織を霧状にしたもの]を、それぞれ濃度と曝露時間を変えて噴霧した。その結果、ほぼすべてのマウスがプリオンに感染し、曝露から約150~200日後に死亡した。

他の方法で曝露させる場合、通常は高濃度のプリオンでないと影響は生じないため、これほどの致死率は予想外だった。例えば経口で感染を引き起こすには、脳から脳への汚染に比べて約10万倍の量のプリオンが必要になるという。今回の実験では、プリオンは気道から直接脳に入り込んだとされている。


元論文のタイトルは、”Aerosols Transmit Prions to Immunocompetent and Immunodeficient Mice”です(論文をみる)。

scrapieというのは、羊・山羊に認められる伝達性海綿状脳症で、牛海綿状脳症(BSE)などと良く似た動物のプリオン病です。発病した動物がその毛を岩や樹木、塀などにこすりつける(scrape)症状に由来しているそうです。

これまでは、感染した動物の肉を食べた場合にどのようにして脳まで行くか、その場合腸管ではどの細胞が血中移行に重要か、などがなどが問題になっていて、B細胞、T細胞、NK細胞、濾胞樹状細胞、補体などの重要性が示唆されていました。

ところがこの論文のようにプリオンをスプレーして感染させた場合は、免疫とは関係なく、鼻粘膜から嗅神経を経て、直接脳に感染することが示唆されました。

感染し易さは、動物の正常プリオン(PrPC)量に依存しており、PrPCを過剰発現させたトランスジェニックマウスは感染し易く、PrPノックアウトマウスには感染しませんでした。また、PrPを神経細胞だけに発現させたマウスにも感染しました。

しかし、タイトルの「空気感染」は言い過ぎで、scrapie感染マウスの呼気にプリオンが含まれているわけではありません。実験では、感染マウスの脳組織をすり潰した液を長時間(10分)スプレーしているので、論文にも書かれているように、ヒトの場合このような感染の可能性があるのは賭殺場などの特殊な環境だけだと思われます。

また、マウスは嗅覚が非常に発達しており、脳の半分ぐらいが嗅覚の情報処理に関係すると言われていますので、鼻粘膜/嗅神経からの感染が効率よくおこるのはマウス特異的な可能性もあります。実験的にプリオンを感染させる方法が新たに一つ発見されたという報告だと思います。

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コメント

  1. KIi☆ より:

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    ものは書き方次第で、意味がころっと変わるものですねぇ!!

  2. 神崎 より:

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    鼻粘膜/嗅神経からプリオンの感染が起こるのは,マウスの嗅覚系が発達していることに原因を求めていますが,そうでしょうか。実は,嗅神経の周囲の空間は,クモ膜下腔と連続していています。つまり嗅神経の周囲の空間は,クモ膜下腔を流れている脳脊髄液(以下髄液とする)の排泄路として重要であることが,最近わかってきました。つまり鼻腔の粘膜に投与したプリオンは,この髄液の排泄路を逆走して鼻粘膜からクモ膜下腔に至ると考えたほうが良いと思います。実は脳疾患の遺伝子治療として,遺伝子組換えアデノウイルスからなるエアロゾルを鼻粘膜に投与する非侵襲性の方法がありますが,これも脳へのアクセスとして嗅神経周囲の髄液排泄路を利用しています。
     クモ膜顆粒で産生された髄液は,クモ膜顆粒で吸収(排泄)されると,どんな教科書にも書いてありますが,どうもこれは間違っているようです。そもそもクモ膜顆粒がない動物種はたくさんありますし,クモ膜顆粒は加齢とともに出現します。クモ膜顆粒で髄液が吸収されるという根拠は概して乏しいのです。一方,嗅神経を含めて末梢神経系を覆う神経周膜は,クモ膜に連続します。つまり末梢神経の周囲の空間は,クモ膜下腔と連続しています。クモ膜下腔中の髄液は,この末梢神経の周囲の空間を経て,その末端で組織液として排泄されると考えられます。

  3. tak より:

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    >神崎さん
    嗅神経の周囲の空間が脳脊髄液の排泄路として重要であることは全く知りませんでした。コメントありがとうございました。遺伝子組換えとエアロゾルは反射的にダメと思ってしまうのは浅はかなのですね(><)

  4. より:

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    >神崎さん
    神崎さんのコメントに賛成です。ただ2個目のパラグラフの冒頭に髄液がクモ膜顆粒より産生され,クモ膜顆粒で吸収されるとありますが,髄液の産生は脳室の脈絡叢(みゃくらくそう)という血管組織で,ここは誤りだと思います。
     この脳脊髄液の産生と吸収に関する定説は1914年のWeedの説ですが、どうも根拠が乏しいようです。ことが髄液の産生と吸収のメカニズムですから、脳疾患の治療の根本に関係していますので、もしこの説が誤りであるならばたいへんなことです。この他、髄液の排泄路としては血管やリンパ路も考える必要があり、クモ膜顆粒だけに排泄路を求めるのは危険です。また嗅神経ばかりではなく,末梢神経を覆う神経周膜は,やはりクモ膜に連続することより,末梢神経内の空間はクモ膜下腔と連続するから,やはり髄液の排泄路になりうるのです。例えば最近、話題となっている交通事故後の髄液減少症なども、ひょっとすると、末梢神経根におけるクモ膜と神経周膜との連続部位からの髄液の漏れかも知れません。交通事故後の髄液減少症の患者さんが,事故と髄液異常との因果関係を証明できず,補償の問題等で苦労していますが,髄液排泄に関するドグマ(?)が解決を阻害しているのかも知れません。
     Weed が脳外科医として余りに有名なCushing の弟子のせいか、クモ膜顆粒が髄液を吸収し静脈洞に排泄するという彼の説は、定説として教科書のあちこちに残っています(というか,それしかない・・・)。しかし、そのために脳圧の異常や髄液減少症の患者さんの病態の真の理解が妨げられている可能性があります。病態を正しく説明できなければ,その治療は行き当たりばったりの当座しのぎになってしまいます。
     やはり教科書の記載の全てを疑うという基本的な態度が大事ではないでしょうか。もっとも全てを疑うことを理由に勉強しないことを正当化するのは間違っていますが。 (駒)