恐怖の誘発と経験におけるヒト扁桃体(Amygdala)の役割―両側扁桃体障害の1症例

恐怖をまったく感じない女性、PTSD治療にヒントか

以下は、記事の抜粋です。


恐怖をまったく感じないという珍しい脳疾患にかかった女性に関する研究が、米科学誌Current Biologyに発表された。

SMというイニシャルだけで報告されたこの女性は、脳の中で恐怖感を生み出していると考えられている扁桃体が破壊された「ウルバッハ・ビーテ病(Urbach-Wiethe disease)」という珍しい疾患の患者で、他の人ならば恐怖を感じる場面で「非常に強い好奇心」を感じるのだという。

研究者らは症状の観察の一環としてある時、クモやヘビといった一般的に気味悪がられる生き物ばかりのペットショップへ女性を連れて行った。女性は店へ入ったとたん、様々な種類のヘビがうごめく水槽に魅せられた様子だった。そして店員にヘビを抱いてみるかと聞かれると、何の抵抗もなく「自分の腕の間をすり抜けて動くヘビをまじまじと眺め、うろこをなでたり、舌に触れたり」して、はしゃぎながらヘビと戯れた。

女性は30歳のときに強盗に襲われたこともある。体をつかまれ、喉にナイフをつきつけられたが、女性がまったく動じない様子を見てとると、強盗のほうから手を放した。小さい頃は暗闇や犬が怖かったという記憶があることから、疾患は生まれつきではないと考えられる。


元論文のタイトルは、”The Human Amygdala and the Induction and Experience of Fear”です(論文をみる)。

扁桃体(Amygdala)が情動、特に恐怖と関連するということは、動物実験によって明らかにされてきましたが、ヒトにおける証明は、このSMさんのようなウルバッハ‐ビーテ病(Urbach-Wiethe disease)の症例だけのようです(川村光毅先生のサイトへ)。

上の記事では、「疾患は生まれつきではないと考えられる」と書かれていますが、この病気は、細胞外マトリックスタンパク質(ECM1)をコードする遺伝子の変異により生じる常染色体劣性疾患です。皮膚症状と神経症状を特徴とします。神経症状は、両側性の側頭葉内側や扁桃体のカルシウム沈着と変性によるとされています。稀な疾患で、病気の発見以来これまでに約300人が報告されているだけです。

SMさんは現在44歳ですが、論文に登場したのはこれが初めてではありません。14年前にも”Impaired recognition of emotion in facial expressions following bilateral damage to the human amygdala”というタイトルの論文で、表情に現われた感情を読み取る能力(特に恐怖感)が低下していると報告されています(論文をみる)。

今回の論文でSMさんはいろいろな経験をさせられていますが、本質的には前回の報告と変わらないように思いました。それにしても、悲しみ(sadness)、怒り(anger)、驚き(surprise)、幸福(happiness)、嫌悪(disgust)の感情には影響がなく、恐怖(fear)だけがほとんど無くなるというのは本当に驚きです。

SMさんのMRI画像。矢印の先が扁桃体、黒く抜けています(Mail Onlineより)。


MRI画像の拡大。黒く抜けた扁桃体が良くわかります。

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