肺動脈高血圧症治療におけるエンドセリン受容体拮抗薬―ボセンタンとアンブリセンタンとテリン®

米ファイザー、肺病治療薬「テリン」をリコール-臨床試験も中止
以下は、記事の抜粋です。


製薬最大手の米ファイザーは、肺動脈高血圧症治療薬「テリン」について世界的なリコール(無料の回収)を実施し、臨床試験を中止している。生命を脅かす恐れのある肝臓障害との関連が判明したためだという。同社は12月10日の発表資料で、新たな患者にテリンを処方するべきではなく、投薬中の患者については他の治療法に変えるべきだとしている。

肺動脈高血圧症は、肺動脈の血圧が上昇し息切れをもたらす病気。テリンはEUとカナダ、オーストラリアで販売されている。ファイザーの広報担当者、カーティス・アレン氏によれば、同医薬品の2010年1-9月の売上高は4440万ドル(約37億3000万円)だった。ファイザーは08年2月に実施した1億9500万ドル規模の米エンサイシブ・ファーマシューティカルズ買収に伴い、テリンを獲得した。


肺動脈高血圧症(Pulmonary arterial hypertension, PAH)とは、心臓から肺に血液を送る血管(肺動脈)の末梢の小動脈の内腔が狭くなり、肺動脈圧が高くなる病気です。25mmHgを越えるような肺動脈圧の高い状態が続くと右心不全をきたし、死に至る重篤な病気です(詳しくはこちら、またはこちら)。

現在使用可能な治療法としては、抗凝固薬(血栓形成を防止する)、利尿薬、カルシウム拮抗薬、酸素療法などの一般療法と以下のような特異的薬物療法があります。

特異的薬物療法の基本は、血管拡張と血管壁細胞の増殖抑制です。プロスタグランジンI2(PGI2)、一酸化窒素(NO)、シルデナフィル(バイアグラ)などに加えてエンドセリン受容体拮抗薬が用いられます。

エンドセリンは、PAH患者で発現が亢進しており病態の増悪に関与するというのがその使用根拠です。エンドセリンの受容体にはETAとETBの2種類があります。血管系では内皮細胞に ETB受容体が、血管平滑筋には主としてETA受容体が存在し、それぞれが血管弛緩因子の遊離と血管収縮に関与しています。

エンドセリン受容体拮抗薬には、先発のボセンタン(商品名:トラクリア)と後発のアンブリセンタン(商品名:ヴォリブリス)があります。アンブリセンタンはボセンタンよりもETA受容体に対する選択性が強く、肝障害もおこしにくい点で優れているとされています。

テリン(Thelin)について調べたところ、sitaxsentanの商品名でした。sitaxsentanもエンドセリン受容体拮抗薬で、PAH治療のためにアンブリセンタンよりも早くから開発されていましたが、上の記事のように主に肝障害の副作用のためにリコールされてしまったようです。

現在、PAHの治療で最も効果があるとされているのは、 PGI2(商品名:フローラン)の注射製剤の静脈内持続注入療法だとされています。しかし、24時間持続投与による患者QOL低下や高額な医療費が問題とされています。今後は、PGI2系、NOやシルデナフィルのようなPDE5阻害薬を含むcGMP系、エンドセリン系の3つの組み合わせが重要だと思われます(下図参照)。

エンドセリンは1988年、当時筑波大学の大学院生であった柳沢正史氏(現テキサス大教授)によって発見され、我々の業界は大騒ぎでした。若き天才科学者の出現で、我々凡才は何となく肩身の狭い思いをしたのを覚えています。当時の状況を知るものとしては、エンドセリン受容体拮抗薬の臨床応用がPAHだけというのは何となく物足らない気持ちです。

PAH治療の標的、エンドセリン経路、NO/cGMP経路、PGI2経路(medscapeより)