シルクロードが結ぶベーチェット病の遺伝学:日本とトルコにおける大規模ゲノムワイドSNP解析

失明もあるベーチェット病、発症は遺伝子変異

以下は、記事の抜粋です。


横浜市立大や北大などの研究チームは7月14日、目や皮膚などに炎症を引き起こし、失明することもある難病「ベーチェット病」の発症に関係する遺伝子を突きとめたと発表した。治療薬開発に道を開く成果で、科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」電子版に発表した。

ベーチェット病は自己免疫疾患の一つで、国内には約1万5000人(2002年)の患者がいる。研究チームは、患者612人と健常者740人のゲノムを、約50万か所に及ぶSNP(スニップ)に着目して比較した。

その結果、患者では、過剰な免疫反応を抑える生理活性物質「インターロイキン(IL)10」や、免疫反応を制御するスイッチ(インターロイキン受容体:IL23R、IL12RB2)の遺伝子変異が多くみられた。これらの遺伝子変異によって、免疫反応のブレーキがかからず、症状が出ると見られる。

研究チームの大野重昭特任教授は、「治療薬開発につながる成果。近い将来、この病気による失明がなくなるかもしれない」と話している。


元論文のタイトルは、”Genome-wide association studies identify IL23R-IL12RB2 and IL10 as Behçet’s disease susceptibility loci”です(論文をみる)。

この論文は、日本人の患者についての結果をまとめたものですが、Nature Geneticsには同時にトルコ人の患者についての結果をまとめた論文も掲載されています。そのタイトルは、”Genome-wide association study identifies variants in the MHC class I, IL10, and IL23R-IL12RB2 regions associated with Behçet’s disease”です(論文をみる

ベーチェット病は、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とします。日本では、難病に指定されています(難病のサイトをみる)。

ベーチェットは、1937年に病気を分類したトルコ人の医師の名前です。この時彼は、この病気がトルコから日本までのシルクロード沿いにほぼ限定される事を見出しました。この事実はベーチェット病の遺伝素因の重要性を示唆していますが、実際に大規模なゲノム解析を行い、免疫異常と関連する遺伝素因を同定したのは、今回の2つの論文が最初です。

興味深いのは、トルコと日本というシルクロードの両端で行われた大規模なゲノムワイドなSNP解析において、ほぼ同じ結果が出たことです。特にIL10遺伝子バリアントの発見は注目されます。

トルコ人の解析では、ベーチェット病に特異的なIL10遺伝子バリアントを2コピー持つヒトの血中IL10レベルは、0あるいは1コピー持つヒトの約1/3でした。IL10の機能の1つは、炎症の抑制ですので、低IL10レベルはベーチェット病のリスクファクターになると考えられます。

また、異なるIL10遺伝子バリアントが潰瘍性大腸炎、1型糖尿病、SLE、重症若年性RAなどと関連する事も報告されています。今回の論文で、IL10の自己免疫疾患における重要性がベーチェット病でも確認されました。

Affymetrix社の”GeneChip Human Mapping 500K Array Set”を使えば、ヒトゲノムをほぼカバーする500,568個のSNPが一発で調べられます。おそらく、やり易い解析はもう終わっているのだと思います。

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