ラパマイシン(rapamycin、シロリムス)とラパログ(rapalogs)

アフィニトール:腎細胞癌に有効な日本初の経口mTOR阻害薬

以下は、記事の抜粋です。同じ会社の薬物に2つの名前がつきました。


2010年1月20日、抗悪性腫瘍薬のエベロリムス(商品名:アフィニトール錠5mg)が製造承認を取得した。

エベロリムス製剤は、既に低用量製剤(サーティカン錠0.25mg、同錠0.5mg、同錠0.75mg)が2007年から免疫抑制薬として発売されているが、低用量製剤の適応が「心移植時における拒絶反応の抑制」であるのに対し、今回、承認された製剤の適応は「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」である。

本剤は、日本初の経口mTOR阻害薬である。マクロライド系免疫抑制薬として開発されたシロリムス誘導体であり、イムノフィリンであるFKBP-12と複合体を形成する。

この複合体は、セリン/スレオニンキナーゼであるmTORに結合し、細胞増殖シグナルを阻害することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制すると考えられている。さらに本薬は、血管新生を阻害することによっても腫瘍の増殖を抑制する。


エベロリムス(everolimus)は、ラパログ(rapalogs)とよばれるラパマイシン(公式一般名:シロリムス(sirolimus))アナログの1つです。ラパログには、他にtemsirolimus、deforolimusなどがあります。

これらのラパログについて、わかり易く説明した文献がありましたので以下に紹介します。

Rapamycin: Something Old, Something New, Sometimes Borrowed and Now Renewed

以下は、英文要約の和訳です。


mTORは、複雑な細胞内情報伝達機構の中心に位置し、細胞増殖、血管形成、オートファジー、代謝など多様な細胞内過程に関与している。

最も古いmTOR阻害薬であるsirolimus (ラパマイシン)は、30年以上前に発見された薬物であるが、最近になって数多くのラパログが開発されている事実は、mTOR経路に対する製薬業界の関心がまだまだ強いことを示している。

これらの新しい薬物(ラパログ)は、いくつかの薬物代謝上の違いはあるが、構造、薬物代謝、患者の忍容性など、メリットもデメリットもほとんどラパマイシンと変わらない。

mTOR経路に作用する薬物の潜在的可能性は、非常に魅力的だが、ラパマイシンの特許切れによるコスト減を考えると、新しいラパログよりもラパマイシンにもう一度注目すべきである。


ラパマイシンやラパログは、記事にあるように、FKBP-12と結合し、mTORの活性を阻害するのですが、すべてのmTOR活性を阻害するのではありません。

下図に示すように、mTORは複数のタンパク質と複合体を作っていて、それぞれTORC1、TORC2とよびます(mTOR Complexの略)。
TORC1はmTORとraptor、GβL(別名mLST8)の複合体で、TORC2はraptorがrictorに置きかわったものです。TORC2にはさらに、SIN1 (SAPK-interacting protein)、Protor-1 (protein-observed with Rictor-1)が結合します。

ラパマイシンやラパログは、TORC1のみを阻害し、TORC2には影響しません。

下図に示すように、TORC1は、様々なシグナルによって活性化され、PI3K、AMPKなど様々な分子がこの活性化に関与しています。TORC1の下流には、 4E-BP1とS6K1という2つの分子があり、mRNAの翻訳やタンパク合成を調節して細胞周期や細胞増殖を制御しています。

ラパマイシンやラパログは、FKBP-12と結合し、この複合体がmTORに結合します。その結果、mTORとraptorの相互作用が不安定になり、TORC1の作用が阻害されると考えられています。

ラパマイシンのバイオアベイラビリティーは低く(約15%)、患者によるバラツキが大きいとされています。このバイオアベイラビリティーの低さは、小腸のCYP3AとP-糖タンパクの影響です。また、代謝は肝臓のCYP3A4によります。

このように、ラパマイシンがP-糖タンパクとCYP3A4と相互作用することは、個人による吸収や代謝のバラツキの原因となるとともに、薬物相互作用の原因にもなります。例えば、抗真菌薬のketoconazole、免疫抑制薬のcyclosporine、さらにはグレープフルーツジュースなどです。

ラパログとラパマイシンの構造はほとんど同じで、違うのはmTORやFKBP-12との結合に関係のない部分だけです。

Temsirolimusは、sirolimusの水溶性プロドラッグです。静脈内投与できる進行性腎がんの治療薬として2007年にFDAに認められました。

Everolimusは、心臓と腎臓移植の際に免疫抑制薬としてヨーロッパで用いられ、最初の記事のように、抗がん薬として研究されています。Deferolimusは、最新のラパログで、様々な悪性腫瘍に対して効果が調べられています。

ラパマイシンとラパログの薬理作用や効果は、ほとんど同じです。また、ラパログが開発された主な理由は、ラパマイシンの薬物代謝特性を改善するためでしたが、低いバイオアベイラビリティー、P-糖タンパクやCYP3A4との相互作用、個人による薬物代謝のバラツキなどの問題はほとんど変りません。

一方、他の免疫抑制薬や抗がん薬に比べると副作用が少なく、これらの薬物の魅力の1つです。そのため忍容性は高く、がん患者に用いた場合でも、易感染性などの免疫力低化による副作用もほとんどないとされています。

mTORがタンパク合成と細胞周期進行において果たす複雑な働きのため、mTORの働きを阻害する薬物は、潜在的に多くの可能性をもっています。抗がん作用や免疫抑制作用の他にも、血管新生やオートファジーなどへの効果も臨床応用の可能性があります。理論的には、mTORが病態に関与するすべての疾患への応用が考えられます。

新しいラパログを使うメリットとデメリット、特にコストを考えると、筆者は特許切れになったラパマイシンにもっと注目すべきだと結論しています。

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