アセチルコリン・エステラーゼ阻害薬と「湾岸戦争症候群」

予防薬や殺虫剤が主因 「湾岸症候群」で米調査委
「湾岸戦争症候群は実在する」、米議会諮問委員会
「湾岸戦争症候群」の主な原因は化学物質、米研究結果

少し古い話題ですが、「湾岸戦争症候群」について書きます。以下は、最初の記事(2008年11月18日付け)からの抜粋です。


1991年の湾岸戦争に参加した米帰還兵が慢性的な頭痛などの症状に悩まされている「湾岸戦争症候群」について、米退役軍人省の調査諮問委員会は17日、神経ガス予防薬や、殺虫剤が主因とみられるとの報告をまとめた。

報告は、帰還兵約70万人のうち少なくとも17万5000人(25%)が記憶障害や頭痛、発疹(ほっしん)などを訴え、ほとんどが回復していないとした。同症候群をめぐっては、同じ委員会が2004年、イラクの化学兵器の影響などさまざまな可能性を指摘する報告をまとめたほか、存在を否定する見解もあったが、今回の報告は「湾岸戦争症候群は実際に存在する」として米政府の責任を指摘、治療法の研究などを充実させるよう求めた。

問題の予防薬は「臭化ピリドスチグミン」と呼ばれ、敵の神経ガスの予防薬として兵士らに投与された。殺虫剤も感染症予防などのため、大量に使用されたという。


3つ目の記事に書かれているPNASに発表された論文のタイトルは、”Acetylcholinesterase inhibitors and Gulf War illnesses”です(論文の要約をみる)。

「湾岸戦争症候群」をひきおこしたとされる殺虫剤(有機リン系、カルバメート系)と予防薬(ピリドスチグミン)、そして神経ガス(サリンなど)のすべてが、アセチルコリン・エステラーゼ(AChE)という酵素に結合し、その活性を阻害します。

AChEは、アセチルコリンという神経伝達物質を分解しますので、これらの薬物は、シナプス間隙におけるアセチルコリン濃度を増加させます。

松本サリン事件の時も、犯人たちは米軍の真似をして、ピリドスチグミンを服用したそうです。なぜ同じAChE阻害薬であるピリドスチグミンに、サリンの予防効果があると考えたのでしょうか?

弱い薬物(ピリドスチグミン)で、標的分子(AChE)をカバーすれば、サリンの結合が阻害できると考えたのかもしれません。しかし、動物実験でも予防効果はみとめられず、無駄な予防投与だったと思われます。いずれにしても、これらのAChE阻害薬が「湾岸戦争症候群」の原因であることが、疫学的に強く示唆されています。

ピリドスチグミン(商品名:メスチノン)は、重症筋無力症という病気の治療に用いられています。また、認知症に用いられるドネペジル(アリセプト)もAChE阻害薬です。予期しない副作用に気をつけましょう。

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